大切なものは

第 34 話


「・・・本当に、勝った、のか?」

敵が敗走しもぬけの殻となった基地で、レドはポツリとつぶやいた。あっという間だった。ランスロットに最初のエナジーを補給するまでのほうが、よほど大変だった。そのぐらい、あっさりと敵は負けを認め逃げ出したのだ。
2年もの間ブリタニアと戦い、膠着状態を築いていた相手がだ。
軍師であるジュリアスはトレーラー内で端末を弄り、時折簡単な指示を出していただけだったがその指示はおそろしく的確で、まるで狐につまれたかのように、まるで最初から仕組まれていたシナリオだったかのように物事は進んでいった。
この基地のシステムをハッキングし、偽の識別信号で敵の指揮系統を混乱させた手腕もそうだが、僅かな情報で戦局を見極める分析解析力が並外れている。人がどうすればどう動くのかその思考の先を読み、先回りし、追い詰める。・・・あまりにも思い通りに進む戦局に恐ろしいと、感じた。
だって、たった3騎なのだ。
たった3騎で制圧したのだ。
ありえない。
もしかしてこれは夢で、今もまだあの寒いトレーラーの中で寝ているのではないだろうか。そんなふうに疑ってしまう。
これを、奇跡と呼ばずに何といえばいいのか。
今思い出しても戦慄が走る。
敵の主力をひきつけたランスロットと、その補佐に1騎。
2騎をそこに使えば当然残りは1騎。
その1騎と3台のトレーラー。
騎士が1人と、技術者たちと、隻腕碧眼の軍師だけ。
ジュリアスはトレーラーの機器と技術者たちを使い、施設内のシステムにハッキングすると、情報操作による混乱をいとも簡単に作り出し、施設内の機能を停止させた。やったことはそう多くはない。だが、最低限の操作を的確なタイミングで行うことで、最大の成果を生み出していたことはまちがいない。
混乱は混乱を呼び正常な判断ができない状況を作り上げたのだ。ランスロットの圧倒的な戦術を前に畏怖の念をいだき始めていたものたちは軽いパニックを引き起こし、そこにブリタニア軍の伏兵が別方向から数十騎攻めてきたという嘘情報と嘘の敵影信号とともに、尖兵のKMFが姿を現す。
たった1騎に大半の兵力を出していたのだ。ブリタニア軍が本気を出し、精鋭部隊を連れ攻めてきたという情報を前に、命を捨ててでもその場を守れというのは無理な話で、その後の展開はあっという間だった。
そんなに簡単に基地を捨てるのか?
決死の覚悟で残るものはいないのか?
じぶんなら・・・と思うが、人の心の動きを読み先回りする相手が敵にいて、あり得ない幻影まで見せられて正常な判断ができるだろうか。周りのものが逃げ出す姿を見て、立ち止まれるだろうか。
いや、立ち止まれたものはきっと、ランスロットに挑み敗退したに違いない。数十機より1騎のほうがまだ可能性があり、ランスロットさえ倒せば、攻めて来るのは1方向。まだ望みはあるのだから。
でも結果は、見ての通りだ。
・・・これは現実なのだろうか。
一体何を見たのだろう、自分は。

「・・・いや、いまはまだ作戦行動中だ」

畏怖の念を振り払い、指示された通り基地内をKMFで走り回る。
残存兵がいないかの確認と、乗り捨てられたKMFがあれば武器とエナジーを回収するためだ。
今、ランスロットは基地上空で待機している。
敵が戻ってこないか警戒しているというより、戦力の大半を注ぎ込んでも倒せなかったランスロットという存在を見せつけることで、敵が体制を立て直して攻め込んでこないよう威嚇しているのだ。そのためにも、エナジーは必要だから、できるだけ回収するのが自分の役目。
技術者達は基地の制圧の作業をしている。基地内の監視カメラを外部から見られたら終わりだから、システムそのものに制限をかけているらしい。
本国にはすでに基地を制圧したと報告済みで、本物の増援がこちらに向けて出発している。空路を使えば前線基地からここまでそう時間はかからず到着するだろう。それまでここを守れば任務完了だ。

圧倒的な戦術と、奇跡のような戦略。

「これが、ナイト・オブ・ラウンズなのか」

帝国最強の騎士。
自分たちとは別次元の存在なのだと改めて理解した。

Page Top